漫画レビュー

高校球児ザワさん/三島衛里子

この漫画がスゴイ6位にランキングされた作品。このブログではあらすじ⇒感想という形で本を紹介するようにしているんだけど、この漫画に限ってはあらすじはなしです。

タイトルから解る通り高校の野球部に所属している女子生徒・ザワさんの物語ですが、そこから連想されるようなお話ではありません。

公式試合出場を目指しているザワさんとそれを応援する部の仲間が出てきて見事出場をはたす、なんてことはありません。

部活内の複雑な問題だとか、高校生のひたむきさだとかそういうものも描いていません。

では何なのかと言うと「普通の高校野球部に一人女子生徒が入っていたらどんな感じか」ということをひどく現実的に描いています。

筋肉自慢をしている男子に自分も自慢したくなっちゃってスパッツのまま筋肉見せにくるザワさんだとか、それを見てちょっと照れつつ困る男子生徒だとか。

練習中、先輩にもらったアドバイスのおかげで良い玉が投げられてちょっとうれしそうなザワさんの顔だとか。

あるいは小学生目線で、毎朝同じ駅から電車に乗ってるザワさんの制服が冬服から夏服に変わったことに気付くだけの話もある。

一体そんなものの何が楽しいのか、という話だけど、実際楽しくはない。

ただ、ザワさんが顔あらってるだけのシーンに2ページ4コマをまるごと使ってたり、セリフなしで男子生徒の目線の変化だけを描いたり、繊細すぎる描写が自分をこの世界に連れて行ってくれる感覚がある。

その結果ほとんど心情描写がされないザワさんの自然すぎる姿を勝手にのぞき見てるような気分になる。好きなのだけれど照れて話しかけることが出来ない女の子の日常をストーカーしてるみたいだ。

当たり前の話だけど、普通の漫画ならキャラクター達は必殺技を出すときには技名を言って、アップで描かれ集中線が集まるのだけど、この漫画にはそういうものが一切ない。というか漫画的表現自体が完全に排除されていて、片思いしている相手の写真集を読んでるような気すらしてしまう。

だから普通の漫画を期待してこの本を読んだらがっかりすること請け合いだし、じゃあ誰がこれを読むのか、と言われると難しい。

少なくとも、表紙の絵柄と「高校野球部に女性部員がいたら」というシチュエーションに自分の変態心をくすぐられるような気がする人はぜひ読んでほしい。

高校球児 ザワさん 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

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【少女漫画】ハチミツとクローバー(羽海美チカ)

美大の学生や教師などの片思いを描いた物語です。
思春期を少し過ぎたモラトリアムの頃の青臭さやほろ苦さをぐつぐつ煮詰めたような、一人で読んでるのに恥ずかしくて叫びだしたくなって思わず周りを見回してしまうような漫画です。

この作品のころの羽海野チカさんはシリアスとギャグの分量が絶妙で、シリアスな部分を破たんさせない程よい緩さが出るギャグが良いタイミングで挟まれています。

美術の天才である花本はぐみという少女に恋をする竹本の視点から物語は始まります。
一目ぼれから始まり、花本はぐみの美術への思い、その取り組み方や苦悩を見て彼女に恋をすればするほど、竹本は凡人である自分の弱さや情けなさを実感していきます。
そして就職もうまくいかず、自分が何がしたいのかもわからずに、竹本は自転車に乗って一人旅に出てしまうのです。

僕は読んでいてこんな旅したかったなぁ、と思わず思ってしまうような楽しくて孤独でお尻がやけにいたくなるようなその青臭さがたまらなく懐かしい気持ちになりました。
旅から帰ってきた竹本には待っていてくれる人がいて、成長した彼をむかえてくれるのです。

一方、竹本と同じ寮に住む真山はバイト先のデザイナーにストーカーのような恋をしています。(とゆーか完全にストーカーなんですけどね)
そんな真山に恋をする山田あゆみ。山田あゆみの思いは真山に筒抜けで、でもそれにこたえることは出来ない真山。
真山の背中から山田あゆみが告白するシーンはまさにこの物語の名シーンの一つで胸がしめつけられる思いがしました。

やがて、卒業を迎えてみな離れ離れになる日、竹本は花本はぐみを自転車の後ろにのせて告白をします。
それは、ただ自分の気持ちを伝えたいというだけの純粋な告白で、そんな損得勘定なしの恋をした思い出がある人も多いのではないでしょうか。

旅立ちの列車の中で竹本は自分に問いかける。

―ずっと考えていたんだ。

―かなわなかった恋に意味はあるのだろうかと

別れ際、花本はぐみがくれたクローバーが詰まったサンドウィッチを食べながら答えをみつけます。
そう思えるから、片思いになってしまったことも全部受け入れてまた新しい恋ができるのだと思います。

片思いをしたことがある人なら絶対に共感できるはずです。

今片思いをしている人にも、片思いしてた頃を思い出したい人にもオススメの漫画です。
ただし、絵がちょっとメルヘンなので少女漫画が苦手な人にはつらいかもしれません。

ちなみにこの漫画は1巻だけ読んで読むのをやめてしまうのはもったいないです。
なぜなら、描きだしたころはたぶん連載が続けられるかわからなかったようで、ほぼ1話完結のギャグ漫画みたいになっている。
2巻以降に片思いが表面化してきた頃からがこの物語の始まめりなので、まだ読んでない方はとりあえず2巻までは読んでみてください。

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【少女漫画】僕の初恋をキミに捧ぐ

僕の初恋をキミに捧ぐ 1 (フラワーコミックス)

表紙の絵の感じが嫌いだったので読んでなかったのですがなんとなく読んでみました。

内容に関していいとか悪いとか言えるタイプのものでもないんでそれ以外で。

普段読もうと思えないのになぜか手に取る気になる、というのは今の自分に必要だからよばれてるんだな、と思います。

とても悲しくてつらい話なので、そういうものを読んだり見たりするととても落ち込む事はわかっていたけど、そういう物語って読み終わった後に今自分にあるイライラとか悲しみとかつらいこととかを「大した事ない」って切り替えて前向きになるのに役立つと思うんです。

ごめんね、とかありがとうとか普通に生活してたら言いそびれがちなことを素直に言うためのスイッチを入れてくれる。そんな気がします。

だから、普段本屋に行ったりしない人でもなんとなく本屋に行ってほしいな、と思います。ふらっと歩いていれば自分を呼んでる本があるはずです。自分ひとりでは解決できないことを解決するスイッチを入れてくれる力がある物語が並んでるはずです。もちろん、本じゃなくても映画とかでもいいと思います。

そうやって色んな物語を胸に収めて自分の人生を歩むのが豊かな命の過ごし方だと思うのです。

オススメとは言えない作品でしたが出来れば心の奥にちょっと覚えといてくれて、大切な人がいるのにでも何か素直になれない気分になるときがあったら読んでみてください。

以上が感想です。

次いで物語を作りたい人として少しだけ。

少女漫画がなぜ好きかっていうことを考えていると、ベタだから、ってとこに行き着きます。

95%は恋愛を扱いながら、着いたり離れたりを繰り返すだけです。その味付けとして、家庭の悩みとか、人の死とか、スポーツとかを使うけど結局は人の心の機微を描いてるんです。最後にわかる答えだっていつも決まってるけど、でも普段の生活では当たり前すぎて薄まってしまうんです。そういうものを一旦リセットして、素直にまっすぐ生きていけるような力を与えてくれるんだと思います。

男向け漫画だとそういうのはもっと複雑に描かれていて、現実に近づいちゃってる分、シンプルなことが逆に見えなくなってしまうんです。

あと、この作品の最後はたぶん賛否両論あったかと思うし、考えてみれば全然ありうる終わり方だけどあまり見たことない形でした。

作者さんが一番物語を大切に思ってるだろうにこういう終わらせ方は中々できないと思います。その分長く読者の気持ちに残る良い終わり方でした。

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サトラレ(佐藤マコト)

「サトラレ」とは、あらゆる思考が思念波となって周囲に伝播してしまう症状を示す架空の病名またはその患者をさす。サトラレは、例外なく国益に関わるほどの天才であるが、本人に告知すれば全ての思考を周囲に知られる苦痛から精神崩壊を招いてしまうため、日本ではサトラレ対策委員会なる組織が保護している、というのが物語の基本構造となっている。 (wiki)

いわゆる人間ドラマに分類される作品だが、「周りの人に自分の考えが漏れ伝わってしまっているのではないか」という誰もが抱く不安を題材にしていることに何よりも感心する。

ただ思念が漏れるだけでは物語にならないので、彼らを例外なく天才ということにして、それを保護する人々の視点も描くという設定が見事だと思う。

設定の妙という意味ではこの漫画以上のものとは未だ出会ったことがない。

どういうことかと言うと、まず根本に「他人に心を読まれてしまうとしたら」という設定があり、そこから「実際にそんな人がいたら迫害されるのでは?」→「では国益につながるほどの天才ということにする」→「他国に狙われだすので保護する」→「保護する上で難しい点が出てくる」

というような形で設定の結果引き起こされるであろう事に対して物語の中で現実的に対処をしているということだ。世界観、という言い方が近いと思うが非現実的な設定を入れた作品ではこの部分が抜け落ちていて現実感がなくなっている作品が多いと思う。

その点サトラレは世界観の構築をしっかりしている。

残念なことに絵がとてもとても下手なのだけど、僕が好きな漫画は例外なく好きな理由に「絵」が入っていることを考えると、「絵がすきじゃないのにこの漫画好き」というのはかなり稀で、そしてほんとにこの物語を好きなんだなぁ、と思う。

とにかくもうこの設定を考え付いた作者に拍手。早く続刊をだしてほしいです。

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ぼくらの(鬼頭莫宏)

ぼくらの 1 (IKKI COMICS)

買ったきっかけ:
日経エンタ読んでたらオススメみたいになっていたので読んで見た。

※以下感想は重要なネタバレがあるので未読の方はご注意ください※

感想:
少年少女たちがロボットに乗り、正体不明の"敵"と戦うという点で所詮はエヴァの後追い作品という感じは残ってしまっているが、独特な点として世界の滅亡と関連無く主人公たちは死ぬ事になっていく点が挙げられる。また、少年達に死への恐怖による"戦うか否か"の選択権は無いため、"戦う理由を探すための葛藤"ではなく"戦う決心をするための葛藤"が描かれる。
もう一点この作品の重要なポイントとして少年少女たちが否応無く地球の存滅に関わるという点でセカイ系の流れを受けながらも、"具体的な中間項を挟むことなく"というセカイ系のセオリーを破っている点が挙げられる。
本書では主人公たちの戦闘の結果として町の人々が死に、政府の対応や他国からの干渉があり、少年達はマスコミに追い回されるという現実が広がっていく。

どうせセカイ系の後追いだろうから、と1巻で辞めるつもりが予想外に10巻まで読んでしまった。
いわば思春期の妄想でしかないセカイ系の世界観に社会という現実を結びつけた点に惹かれてついつい読破してしまったわけだ。

しかし考えて見れば、何らかの理由で自分達の地球を滅ぼすモノが現れ、地球を代表する形でボクらが戦うというのは、一昔前のウルトラマンの構図だ。
ウルトラマンの主人公が少年少女になり、その結果社会や国家との結びつきがスポイルされて、少年少女が見る(偏狭な)世界と現実の世界を強引に結びつけたものがセカイ系だ。
そんな風に地球の滅亡という問題から社会や国家という現実感を抜き去ったものをセカイ系だとするならば、この作品は一度引いたはず現実をまた足し算しているわけだ。

この足し算が、「ぼくらの」についてまわる世界観のうさんくささというか中途半端さなのだと思う。
国家や社会を結びつけるわりにはSF的な能力が出てきたり、一方で僕らが戦うテキに関する説明をちょっと納得できるかもしれない程度にしてみたり。

決して愉快でも爽快でもなければ、一方でセカイ系らしい憂鬱さもイマイチなく、しかしなぜかページをめくる手が止まらない不思議な作品だった。

果たしてこの足し算は、セカイ系の発展先を示す"現実と結びついたラスト"を迎えるのか、それとも破綻して終わるのか、あと1〜2巻だと思われるので一応読んで見たい。

おすすめポイント:
15人の主人公それぞれに死までのストーリーが用意されているのだがそれなりのレベルには達していると思う。
絵と構図が上手いとは言えないため、せっかくのストーリーを活かしきれていない点がやや残念。

ちなみに「イキガミ」はこの作品からヒントを得ている気がしているのだがどうだろう・・・。

ぼくらの 1 (IKKI COMICS)

著者:鬼頭 莫宏

ぼくらの 1 (IKKI COMICS)

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【青年漫画】20世紀少年(浦沢直樹)

たまには嫌いな漫画のレビューもかいてみましょう。

映画にもなった有名作。

この作品は駄作だと断言できる。

この漫画が読者に読ませる動機は
「ともだちは一体誰なのか?」
これにつきる。

20数巻にも及ぶ途中経過の話の中で心を揺さぶるものは何もないし、感動を覚えることもない。ただひとつのお題だけで話がだらだらと進んでいく。

その上すべてのエピソードは後付けでいきあたりばったり。

急に過去の事を思い出す→新しい伏線ってことにする
急に過去の事を思い出す→伏線回収ってことにする。


構成が最悪なら、せめてオチはすばらしいのか?

いいえ、オチまで含めて立派な駄作です。

それだけのひっぱりをした「ともだち」に関する謎解きがひどい。作者にしてみれば複線を引いたつもりかもしれないが、20巻もひっぱって視点の外のとこから出すなんて・・・。あのオチの付け方は短編のひとつで「お、やられた」ってちょっと感じればいいレベルのものだ。
読者の予想外であればなんでもありってわけじゃないでしょうが。

レベルEのオチ、虹ヶ原ホログラフの構成を見習ってほしい。数十ページできれいにオチをつける事が出来ず、構成もめちゃくちゃな気力のない絵を20数巻も読まされた疲れは尋常じゃない。

評価:5点。
取り繕い技術の高さに敬意を評して。

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【少女マンガ】ちはやふる(末次由紀)

ちはやふる

著者:末次 由紀

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)
内容の前に、作者について。
末次さんといえば数年前に自身の漫画でスラムダンクをトレースしたとして過去の出版物が全て廃刊になるという罰を受けたことがある方だ。末次さんに対するバッシングはある種のブームのようになっていたと思う。ネットに転がってるパクリ検証サイトをみれば分かるが、漫画界はトレースの嵐である。多くの漫画家がトレースをしている中でパクリ元がスラムダンクだったからなのか(そのスラムダンクすらもバスケ雑誌からのトレースが指摘されている)、なぜか末次さんは廃刊になるという最高の罰を受ける必要があるほどにバッシングされてしまった。
その末次さんが書いた長編復帰策の本作が漫画大賞を受賞した際に、その受賞に出席せず以下のようなコメントをしている。
「過去に犯した間違いというものがあり、自分はまだこういう場に出て行けるような人間ではない。一生懸命マンガを描いていくことでしか恩返しはできない」
飲酒運転をした芸能人の謝罪会見ほどうさん臭いものはないが、賞の授賞式という場で敢えて自身の過ちに触れるという姿勢から、作者がどれほどバッシングに苦しみ、そして漫画に賭ける思いが強いのか、という事が伺えてとても応援したくなってしまった。


さて、序文が長くなってしまったが本作は第2回漫画大賞を受賞した競技かるた漫画である。
競技かるたとは百人一首のかるたを並べ、詠み手が詠んだ上の句に合う下の句の札を競技者がいかに早くとるか、を競うスポーツである(これは常識?おれの学校にはこんな文化ないから知らなかった)。

競技かるたの名人を祖父に持ち自身も競技かるたの名人を目指す少年新(あらた)、美人でモデルという憧れの姉を持ち自分自身は才能といえるものを持たず「姉がモデルの日本一になることが自分の夢」と考える主人公の少女千早(ちはや)、ちはやの幼馴染であり成績優秀スポーツ万能の太一という3人の小学生の物語である。

新に「夢は自分のものじゃなくちゃだめだ」と教えられたち千早は名人を目指す新に影響を受け、クイーン(女流かるたの最上位)になることを自分の夢として抱くようになり徐々にかるたの才能に目覚めていく。太一は圧倒的な実力を持つ新に尊敬と、そして悔しさ羨ましさを覚えながらもかるたに惹きこまれていく。そして小学生編のクライマックスとして3人がチームとして始めての大会を迎える。

一般的少女漫画視点で言えば例え部活を題材にしたとしても本筋は恋愛の物語であることが多い。この作品も小学生編が終わり、大人になるにつれてそういった部分が濃くなっていくのかと思っていた。
しかし、この作品は競技かるたを恋愛のための添え物として選んだのではなく、物語の本筋として必要だから選んだと言える書き方をしている。

マイナー競技を題材として扱う作品では、そのスポーツのルールや醍醐味を曖昧にして描かれることが多い。例えば「ヒカルの碁」を楽しいと感じた人は多いと思うが、碁のルールや碁の何が面白いのかをわかった人は少ないと思う。「ヒカルの碁」では碁の勝負内容ではなく、それに纏わる登場人物の心象描写と絵の上手さで楽しさを表現していたが、ルールも知らない読者にマイナー競技の楽しさを伝えることはとても難しいと思う。

競技かるた自体の「どっちが早く取るか」というルールの単純さもあって、ちはやふるでは競技者の熱をかるたを通して見事に表現している。また、おれ自身が卓球をやってたこともあってカブる部分が多くある。
1対1の競技だからこその「勝ちも負けも全ての責任は自分にある」事の重みは団体競技では得られないものだと思う。そして、1対1の競技における団体戦―チームメートに送り出されて競技に臨み、試合が終われば勝っても負けてもその責任を背負って仲間の元に一人で帰らなくてはいけない。応援している側も、仲間の勝負の間はただ祈るしかない。そして仲間の勝負が終わった後には、また自分自身も全ての責任がかる勝負に臨んでいく。自分の一敗がチームの負けに繋がれば悔しくてたまらないし、自分が負けたとしても仲間の力で勝利したときの喜びははかり知れないものがある。
思わず鳥肌が立ってしまうその熱さを描けているのは作者が真剣にこの作品に取り組んでいるからだろう。

そしてもう一つ、高校生になったちはや達はかるた部をつくるのだが、競技かるたは未経験であるものの百人一首の情緒ある趣きと和服をこよなく愛する大江ちゃんという子が加入する。これまでは勝負の熱を伝えるだけのものであった競技かるただが、大江ちゃんによる百人一首の解釈が物語に深みを与えて行くことになりそうだ。おそらく3人の思いを映すように百人一首に描かれた言葉が意味を持つようになっていくに違いない。

最新刊では高校生になり始めてクイーンと対戦をするちはやが描かれている。全く適わずにやぶれてしまった千早、一時期かるたをやめてしまっていた新、二人にはまだ実力は及ばなくとも同じ舞台に立つことを目指して戦う太一。この先どのような展開になっていくのかとても楽しみな作品である。
点数:85
→少女漫画というよりスポーツ漫画として良い。

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【少年漫画】H2(あだち充)

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「タッチ」と並んであだちみつるの代表作といえる野球漫画。

中学時代同じチームで野球をしていたピッチャーの比呂と4番打者の英雄。しかしひょんなことから二人は別の高校に行くことになってしまう。英雄は名門高校期待の打者として1年時から4番を任され、期待に応える活躍をする。一方比呂は、同じく中学のチームメイト野田とともに野球部がない高校に、新たに野球部を設立して甲子園を目指す。

物語は比呂を中心に様々なメンバーが集まって強くなっていく行く千川高校と、名門高校で4番を打ちあっという間に人気者になる英雄の対比を中心に進んでいく。

そしてあだち充お得意の、家が近くて勉強も出来て美人で完璧な女であるひかりが比呂の幼馴染として登場する。ところが他の作品と比べてH2が独特なのは、ヒロインであるはずのひかりが、主人公比呂の敵としてはだかるであろう英雄と付き合っている点である。さらに比呂がいる千川高校に"ともかくただの野球好きマネージャー"として春華が登場して、比呂への恋愛感情をあらわにしていく。この春香も、いつもの"あて馬"の役割として読者に邪魔がられる存在として登場したわけではなく、正当なヒロインのように描かれているのである。

野球漫画というよりも恋愛漫画といっても良いくらいで、比呂と英雄の間でゆれるひかり、どんなに頑張っても幼馴染の二人の関係に追いつけず焦る英雄、一途に比呂を追いかけるがひかりに叶わない春香、最後までに読者に気持ちをよませない比呂という4人の気持ちを軸に話はすすむ。
ともかく、あだち充っぽいとしか表現できない淡々としたやり取りから真意を読み取る楽しさが終始満ちていて、ある意味では最も少女漫画のような少年漫画だと思う。

そして高校3年の夏、ついに比呂と英雄が戦う時が来る。この漫画が野球漫画という言葉だけでくくれない理由がこの試合にしっかりあらわれている。
この試合、比呂は「ひかりのことが好きだ。」といい英雄は「絶対に渡さない」と言い、試合の結果をそのままひかりへの思いとダブらせて試合に臨む。
最終打席まで英雄との対決を避け続ける比呂。そして最終回に二人の"はじめての対決"の場面が訪れる。
ふつうの"野球漫画"であれば、主人公とライバルの対決は9回裏2アウト、ホームランが出れば逆転という場面で訪れるはずである。ところがこの試合千川が2-0とリードした場面で対決を迎えるのだ。つまり、二人の対決の結果にかかわらず試合は千川の勝ちになると分かり切っているのである。(英雄がホームランを打ったとしても、その後のわき役たちが打つはずがない。)

このスコアが、この物語のもっとも優れた仕掛けだと思う。一打逆転の場面では比呂は"わざと打たせる"事はできないが2-0ならできるのである。つまり比呂に、ひかりを選ぶか春香を選ぶかという権利が与えられているといえる。

二人の対決の結果については伏せる。最後の一球、「スライダー」のサインを出したはずの一球がなぜ曲がらなかったのか。その理由を想像することが、この漫画の一番のポイントだと思う。

読む人によって解釈は何通りもできる。おれは次のように読み取った。
比呂は試合前確かに「ひかりの事が好きだ」といい英雄に対して敵意をむき出しにする。しかし、物語の流れからは春香の事を好きになっているのでは?と思われる描写が度々あるのだ。相方のキャッチャー野田にも「本当に好きなのか?」と何回も聞かれる。

比呂の気持ちは「ただ英雄と野球の勝負がしたかった」だけで、恋愛を持ち込む周りにうんざりしている思いがあったのでは?という気がしている。いや、"野球なんか関係なく気持ちはもう決まってるんだよ"と思っていたのかもしれない。
ところが英雄はグラウンドに恋愛を持ち込んで勝手に燃えている。つまり、本当は春香の事を好きになっている比呂にとって、「ひかりの事が好きだ」という挑発は全力の英雄と戦うための手段に過ぎなかったのだろうか。

読み方は何通りもある。試合後に宿舎で「夏色」を歌っている比呂からはその思いを読み取ることはできない。全てを分かっていたようで、全てを知らないのかもしれない。

もう一度読み返した時にはまた違った見方ができるかもしれない。だからこそ、ただの野球漫画としてとらえるにはあまりに惜しい作品だと思う。

点数:88点

→あだち充の最高傑作だと思うんだけど世間の評価はそうでもないのですな。

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【青年漫画】3月のライオン(羽海野チカ)

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「ハチミツとクローバー」で有名な羽海野チカによる将棋漫画。

主人公は両親を事故で亡くし父の友人である棋士に育てられ、自分の居場所を守るために将棋に没頭して、史上4人目の中学生棋士となった高校生の桐山。
中学を卒業して高校にはいかずプロの棋士として生きることを決めて養父の家を出たのになぜか1年遅れで高校に通い始める。家族を亡くした時から桐山には居場所がなく、将棋が強くなったことで養父の子供たちから恨まれ、せっかく高校にはいっても昼飯を一人で食べている。

そんな彼と、隣町に住む同じように両親を失った3姉妹が出合い少しづつ居場所を見つけていく。

話の大枠は温かく、そしてちょっとクサい。
でもこの漫画の魅力は主人公を取り巻く周囲の人たちの物語、キャラクターの味にある。
養父の実の家族は桐山が現れたことで壊されてしまう。子供たちは荒れ執拗に桐山を孤独に追い込む。それでもなお将棋が強いことで自分を愛してくれた養父さえも棋士として対局することになり・・。
ライバルとして登場する二階堂は腎臓を患って常に健康と戦っていながら無駄に明るく熱く、どこか冷めたところのある桐山の心を荒らして、桐山が閉ざしている部分をこじ開けていく。この二階堂のモデルが実在した「村山聖」という棋士であることを考えると、この先の展開があまりにも怖く、つらい。
3姉妹にも両親がいないようで、桐山と似た境遇でありながら強くまっすぐでそしてどこかおせっかいだけど、人とかかわることが苦手な桐山が惹きつけられるようにその家を訪れるようになってしまう。

題材は将棋ではあるけれど「ハチミツとクローバー」と同じように天才・孤独というキーワードを使って描かれる心の交流に胸が熱くなる漫画。
ただし、作者特有の心象風景の描写がハチクロの頃より分量が増えすぎていて、慣れない人にとっては相当うっとおしい感じになってそう。何事も過ぎたるはなお及ばざるがごとしですよ。
点数:70点

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【少女漫画】君に届け(椎名軽穂)

君に届け
君に届け (1) (マーガレットコミックス (4061))
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宝島社の『このマンガがすごい!』2008年版オンナ編の1位作品「君に届け」。

ヒロインは人付き合いが下手で見た目が暗い。名前が爽子であだ名はずばり「サダコ」。
でも人付き合いが下手なだけで苦手じゃないし、本人はたぶん自分の性格がくらいだなんて思ってない。でも周りの人が怖がるから、あまり話しかけないでおこうって考えたり、かといえば自分が怖い話をすると喜ぶからって頑張って怖い話を覚えてきたりする。
サラリーマンが昼間に一人で公園のベンチに座ってるのを見た時のような、ちょっとかいわいそうで「頑張れ!」って声をかけたくなってくるような、応援したくなる女の子。ちょっとやんきーっぽい友達2人と同じ目線で、爽子の事をもどかしく、でも温かく見守っていたくなる。

一方相手役の男の子・風早はクラスの人気者で明るくて爽やか、っていうヒーローの見本のようなやつ。

この漫画の面白いとこは、読んでる人が爽子の友達になったような気持ちになって「頑張れ、頑張れ!」ってなっちゃう。いま、男にお勧めしやすい少女漫画1位だと思う。

今はまだ連載中でまさに「頑張れ!」が一番大声になるところ。
ぜひぜひ読んでほしい。

相手役の風早の説明が1行になってるのは、まだ風早が「程よく爽やかで、普通の人並みに悩んだりする」っていうとっても普通の男として描かれているから。これまではほとんど爽子視点で描いていて、それだけで十分に面白いから掘り下げられてないけど、この先風早が掘り下げられるようになるのかな。

でも今更暗い過去とかつけずに綺麗に終わってほしいっていう気持ちもある。

"憧れる"ヒロインじゃなくて"応援したく"なってしまうあまり無かった漫画。
点数:90点
→今連載中の少女漫画では一番。男にもおすすめ。

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