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屋上ミサイル/山下貴光

あらすじ----------------------------------------------------------------------------------------------------------

「屋上の平和を守ろう」

4人の高校生が屋上の平和を守るため、次々と持ち込まれる暴力やうらみつらみを解決する物語。

思いを寄せる女子に思いを告げるために1年間声を出さない事を誓い、屋上から彼女を観察している沢木、自分の過ちを許せずにいる平原、学校一偉そうな不良・国重、課題のために屋上を訪れたデザイン課の辻尾アカネの高校生4人が、たまたま出会った屋上で出会い、屋上部として活動を始める。

一方、世界ではアメリカの大統領テロリストに拉致されて、数日以内にミサイルが日本に飛んでくる可能性があるという危機が発生していた。

ある日、国重は死体が写った写真、沢木は拳銃というそれぞれ屋上の平和を脅かす遺物を拾ってきてしまう。平和を守るため、というよりも興味にかられて、屋上部の面々は写真に写っているらしき人物の正体を探り始める。さらには平原の後悔の念を晴らすために神様に会いに行くわ、沢木は突然屋上に現れた思い人にビンタされるわ、国重は殺し屋に追われるし、アカネは国重の秘密の仕事を知ってしまうったかと思えば弟が何者かによってけがを負わされたりと、穏やかな平和を保っていた屋上に次々と問題が降りかかる。

そして、ミサイル発射の前日すべての問題が一本に繋がっていく。

レビュー----------------------------------------------------------------------------------------------------------

このミス」大賞を受賞した作品。

上で書いたようなあらすじが綺麗に繋がって行くのであれば、興味をそそられる方も多いのではないだろうか。

が、残念ながら違う。例えば、世界の危機は結局のところ物語と何の関連性もない。

さらには、次々と現れる問題達の発生も解決も、国重の暴力か作者のきまぐれで行われるのだ。

ミステリ的な謎解きも全くないのでご都合主義と言われても仕方が無い。

これほどまでにご都合主義で話が転がるならば、『夜は短し歩けよ乙女』のように、ご都合主義である事すらネタにしてしまえば良いのだがその潔さもない。

だが、少し視点を変えるとこれは中々秀作と言えるかもしれない。

この作品はいわばRPGなのだ。

RPGで重要な事は、能力を持った仲間を増やし、ラスボスに会うためのアイテムを集める事だ。

アイテムは他人の家の中のツボにあるかもしれないし、洞窟の奥に隠してあるかもしれない。そこに必然性はなく、多少の危険と成長が伴えば良い。何をやればよいのかは王様が教えてくれるし、ヒントは村人がくれる。

この物語でも、イベントは作者が起こしてくれるし、アイテムも程良いとこに置いてくれている。

そんなRPGの最後に必要な事は、これまで集めてきた仲間とアイテムを全て駆使してラスボスを倒すことだ。使わないアイテムがあってはならないし、仲間の能力もフルに使われることが望ましい。むしろ、ラスボスを一発で倒すような――ミステリの謎解きのような――裏技はいらないのだ。

そう考えればこの物語のラストはかなり秀逸と言える。

ではなぜそんな作業ゲーのような小説が「ミステリ」と名のつく賞を受賞したのかは、さっぱりわからないが。

もうひとつ、この小説のレビューを書くにあたって伊坂幸太郎に触れずにはいられない。受賞の際の選評ですら全ての審査員が伊坂幸太郎の影響に触れているくらいだ。

まずは文体からして、会話の中にさらっと混ざりこんでいるうまい言葉、登場人物たちの素軽いセリフ回しや、バラバラに散らかった伏線の回収という形式など、リスペクトだとかインスパイアだとかで済まされるレベルじゃない程の類似性がある。

さらには大統領拉致によって生まれている『終末のフール』と同様の"世界の終わり。ただし執行猶予付き。"という設定もそうだし、途中で登場する殺し屋の口調や佇まいまでも『死神の精度』などとダブっている。

この点だけで劣化版伊坂幸太郎という評価になってしまうのもうなずける。

僕も、設定や伏線回収については現状では劣化版伊坂でしかないと思う。

ただ、登場人物の造詣が伊坂とはやや異なる。伊坂作品に登場する人物たちのある種スマートな(悪く言えば世捨て人のような)語り口とちがって、この作者の描く高校生にはどこか青臭さやひたむきさというものが漂っている。

そのせいで、屋上部の中で唯一スマートさを身にまとっていそうな平原ですら、どこかひたむきさが抜けきらずにキャラクタがぶれてしまっているのだ。そして、スマートさの塊のような殺し屋は伊坂の作品からゲスト出演しているかのように浮いている。

だからこの作者は青臭さ、泥臭さを隠さずに青春小説に特化して描けば、劣化版伊坂ではない個性ある作品を描ける気がしている。特に主人公辻尾の国重への心情はいかにも「男が求める女の子らしさ」を見事に描けているし、ラストの辻尾の描写はすばらしい。正直、不満げに読み終えそうだった僕もちょっとにやけてしまった。

作者自体も青臭さ全開で、物語の随所に作者の青臭い政治観や世界観、思想が語られている。何しろ高校生や地の文が突然講釈を垂れだすものだから、文章のリズムが狂う。あの辺を全部編集で落とせばページ半分で済んだと思う。大統領の拉致も不要になるし。

とはいえ、そもそも劣化版伊坂といっても、じゃあ「伊坂っぽい」ものですら書ける物書きがどれくらいいるだろうか。少なくとも、伊坂幸太郎に影響を受けたとわかる水準のものを描けているだけでも、相当の筆力がある事が伺えるし、今後の作品を読んでみたいと思える作品だった。

蛇足だがどうしてもいくつかつっこみたい。

・沢木が拳銃を拾った理由をもう少し詰められないものか。せっかく、あの日にアカネの目撃、国重が写真を拾った理由、殺し屋に追われる理由が揃っているんだから、そこだけ詰めれば少なくとも導入部はご都合主義じゃなくなったのに。

・上にも書いたけど大統領の拉致は完全に要らない。事件自体が屋上部とからまないのは仕方が無いとしても、世界の終わりという設定が全く絡まないのはいかがなものか。唯一、物語のヒキとしては役立っているし、僕もこれにひかれた部分はある。でもこういう事やってると、もう2度とこの作者の作品は読みません、て読者は思うよ。

・散らかした事件を中途半端に放置したままだから、明らかに中だるみしている。中途半端なのはいいけど、伊坂幸太郎だけじゃなく、全てのミステリで行われている、事件の整理を登場人物に語らせてないからです。一通り問題がでそろったところで一度整理をするべき。

・国重のキャラクタが最後まで掴めず。正義感が強くて、妙な事で照れ出したりするあたり無骨な不良なのかと思えば、なんだかんだで暴力で解決しちゃうし人として不愉快な方向で常識もない。それを見ても何の非難もしない辻尾もおかしいし、結局ラストで国重が辻尾に言わんとしている事に至る彼の心情はさぱりわからない。

というわけで全くおススメ出来ない作品でした。一方で僕はこの作者の今後の作品は読んでみたいと思っています。

屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)

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