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水滸伝(北方謙三)

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

本書は北方謙三による水滸伝である。
水滸伝を知らない方のためにまず簡単に説明をしておきます。

水滸伝は中国の宋時代のに、政府による悪政に立ち向かうために宋江など108人の豪傑が梁山泊と呼ばれる島に拠って政府に叛乱を起こすという古典小説です。
水滸伝にはロマンが溢れています。わずか数名の男達の決起から始まった梁山泊が、やがて人々の心に広がっていくさま、豪傑達によって次々と打ち破られる役人達、そして叛乱の行方。

しかしこの水滸伝、原本となる物語では豪傑の中に妖術を使うものがいて現実的ではなかったり、それぞれの生年や性格などの整合性がとれていないものでした。

それを現実的な時系列、人格に再構築し、実際に数千数万にも及ぶ人々が島に拠って叛乱を起こすための細事を綿密に描いたのが北方謙三による水滸伝です。

所詮は叛乱の徒であり税収などもない賊徒達がいかにしてその費用を手に入れるのか、いかにしてその志を繋ぎ、仲間を集うのか。
108人の豪傑達も、頭領はもちろん戦闘部隊の指揮官、軍師、さらには梁山泊数万人を養うための方法を考えるものや、病人を治す医者、各地に散らばる同志達を結ぶための通信網を構築するものなど、まさにひとつの国としての体をなすための役割がそれぞれに与えられています。

彼らにはそれぞれの苦悩があり信念があり、その根本には熱い志があります。
志のために与えられた役割の中で苦悩し、成長していく姿には胸が熱くなります。

同時に本書はどんなビジネス書にも勝る組織論の物語でもあります。
例えば梁山泊には宋江と晁蓋という二人の頭領がいます。
二人は互いに尊敬しあい、また108人も二人を仰ぐ事で志のために邁進するのです。

しかし、強気で精力溢れる晁蓋と、思慮深くマイナス思考でもある宋江の間にやがて溝が生まれます。
100万人とも言われる禁軍(政府軍)に対して島から出て本格的に叛乱を起こすにあたって晁蓋は3万人いればよいと主張し、宋江は10万人は必要だと主張します。
改革を受け入れる民の気勢が今まさに熟している。この機を逃してはならないという晁蓋。一方、民はそれほど強い生き物ではない、そして宋という国は晁蓋が思うほど弱くはないと考える宋江。二人の対立はやがて「お互いの顔も見たくない」程のものに発展してしまいます。そして晁蓋は宋江のもとを離れるように小規模な遠征にさえ出陣して行ってしまいます。
それでも二人はこの決断について軍師である呉用を除いてはお互いに他のものに相談をしてはならない、という事を決めてやっているのです。頭領としてグループを崩壊させるものが何なのかを二人はよくわかっています。

一方、軍師にあたる呉用は宋江に意見を問われてこう応えます。
「私はどちらの意見にも反対です」

呉用は梁山泊・宋政府それぞれの戦力、資力、人材や今後の見通しまで緻密に検査をあらゆるシミュレーションを繰り返した上でこう結論付けるのです。
「梁山泊は勝てません」

No3ともいえる存在である軍師がこんな事を言ってしまっていいのか、という考え方もできます。しかし、熱い志を持った頭領二人の意志とそれに従おうという数千数万の命を繋いで改革を現実のものにする手段を誰よりも考え続けているからこその言葉です。

さらには魯達という人物がいます。元は宋江の親友であり、梁山泊結成後は各地を回って有能な人材を探している人物です。魯達は常に梁山泊の外を回って官軍(政府軍)の指揮官までを勧誘したりしているからか梁山泊を客観的に眺めています。
その魯達は頭領たちの対立について次のように述べます。
「おれはどちらでもいいからどっちかに死んでもらいたいと思っていたよ」
―そうすれば意見はひとつになった上で、死んだほうの意志をつぐという名目で無茶も出来るし都合の悪いときにその死を利用する事もできる

宋江の親友であり梁山泊初期からのメンバーでありながら何と残酷で、そして実利的な意見でしょう。

このように108人は自分の役割を理解した上でそれぞれにあった考えを持ち、行動していきます。108人の中に必ず自分と重なる存在がいるはずです。

以上、組織論だとか書きましたが、はっきり言ってこの物語の肝はそんなとこではありません。
何が面白いのか、という問いに対して解があまりに多すぎてどれか一つをとって紹介する事が出来そうもありません。陳腐な言葉だけど男の夢とロマンが溢れるほどに詰め込まれている物語です。

どうか騙されたと思って1巻を手にとって見てください。

これほど面白い書物の魅力のかけらすら紹介する言葉を持っていない自分にいまがっかりしてしまうくらい、最高に面白い。

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