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【少女マンガ】ちはやふる(末次由紀)

ちはやふる

著者:末次 由紀

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)
内容の前に、作者について。
末次さんといえば数年前に自身の漫画でスラムダンクをトレースしたとして過去の出版物が全て廃刊になるという罰を受けたことがある方だ。末次さんに対するバッシングはある種のブームのようになっていたと思う。ネットに転がってるパクリ検証サイトをみれば分かるが、漫画界はトレースの嵐である。多くの漫画家がトレースをしている中でパクリ元がスラムダンクだったからなのか(そのスラムダンクすらもバスケ雑誌からのトレースが指摘されている)、なぜか末次さんは廃刊になるという最高の罰を受ける必要があるほどにバッシングされてしまった。
その末次さんが書いた長編復帰策の本作が漫画大賞を受賞した際に、その受賞に出席せず以下のようなコメントをしている。
「過去に犯した間違いというものがあり、自分はまだこういう場に出て行けるような人間ではない。一生懸命マンガを描いていくことでしか恩返しはできない」
飲酒運転をした芸能人の謝罪会見ほどうさん臭いものはないが、賞の授賞式という場で敢えて自身の過ちに触れるという姿勢から、作者がどれほどバッシングに苦しみ、そして漫画に賭ける思いが強いのか、という事が伺えてとても応援したくなってしまった。


さて、序文が長くなってしまったが本作は第2回漫画大賞を受賞した競技かるた漫画である。
競技かるたとは百人一首のかるたを並べ、詠み手が詠んだ上の句に合う下の句の札を競技者がいかに早くとるか、を競うスポーツである(これは常識?おれの学校にはこんな文化ないから知らなかった)。

競技かるたの名人を祖父に持ち自身も競技かるたの名人を目指す少年新(あらた)、美人でモデルという憧れの姉を持ち自分自身は才能といえるものを持たず「姉がモデルの日本一になることが自分の夢」と考える主人公の少女千早(ちはや)、ちはやの幼馴染であり成績優秀スポーツ万能の太一という3人の小学生の物語である。

新に「夢は自分のものじゃなくちゃだめだ」と教えられたち千早は名人を目指す新に影響を受け、クイーン(女流かるたの最上位)になることを自分の夢として抱くようになり徐々にかるたの才能に目覚めていく。太一は圧倒的な実力を持つ新に尊敬と、そして悔しさ羨ましさを覚えながらもかるたに惹きこまれていく。そして小学生編のクライマックスとして3人がチームとして始めての大会を迎える。

一般的少女漫画視点で言えば例え部活を題材にしたとしても本筋は恋愛の物語であることが多い。この作品も小学生編が終わり、大人になるにつれてそういった部分が濃くなっていくのかと思っていた。
しかし、この作品は競技かるたを恋愛のための添え物として選んだのではなく、物語の本筋として必要だから選んだと言える書き方をしている。

マイナー競技を題材として扱う作品では、そのスポーツのルールや醍醐味を曖昧にして描かれることが多い。例えば「ヒカルの碁」を楽しいと感じた人は多いと思うが、碁のルールや碁の何が面白いのかをわかった人は少ないと思う。「ヒカルの碁」では碁の勝負内容ではなく、それに纏わる登場人物の心象描写と絵の上手さで楽しさを表現していたが、ルールも知らない読者にマイナー競技の楽しさを伝えることはとても難しいと思う。

競技かるた自体の「どっちが早く取るか」というルールの単純さもあって、ちはやふるでは競技者の熱をかるたを通して見事に表現している。また、おれ自身が卓球をやってたこともあってカブる部分が多くある。
1対1の競技だからこその「勝ちも負けも全ての責任は自分にある」事の重みは団体競技では得られないものだと思う。そして、1対1の競技における団体戦―チームメートに送り出されて競技に臨み、試合が終われば勝っても負けてもその責任を背負って仲間の元に一人で帰らなくてはいけない。応援している側も、仲間の勝負の間はただ祈るしかない。そして仲間の勝負が終わった後には、また自分自身も全ての責任がかる勝負に臨んでいく。自分の一敗がチームの負けに繋がれば悔しくてたまらないし、自分が負けたとしても仲間の力で勝利したときの喜びははかり知れないものがある。
思わず鳥肌が立ってしまうその熱さを描けているのは作者が真剣にこの作品に取り組んでいるからだろう。

そしてもう一つ、高校生になったちはや達はかるた部をつくるのだが、競技かるたは未経験であるものの百人一首の情緒ある趣きと和服をこよなく愛する大江ちゃんという子が加入する。これまでは勝負の熱を伝えるだけのものであった競技かるただが、大江ちゃんによる百人一首の解釈が物語に深みを与えて行くことになりそうだ。おそらく3人の思いを映すように百人一首に描かれた言葉が意味を持つようになっていくに違いない。

最新刊では高校生になり始めてクイーンと対戦をするちはやが描かれている。全く適わずにやぶれてしまった千早、一時期かるたをやめてしまっていた新、二人にはまだ実力は及ばなくとも同じ舞台に立つことを目指して戦う太一。この先どのような展開になっていくのかとても楽しみな作品である。
点数:85
→少女漫画というよりスポーツ漫画として良い。

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